カレンダー自然文入力アプリの実力|話し言葉で予定を入れる前に確かめること
「木曜13時 佐藤さんとランチ」と打ち込んで正しい予定ができるまでにかかる時間は数秒である。新規作成の画面を開き、タイトルを入れ、カレンダーから日付を選び、開始時刻を合わせ、終了時刻を合わせて保存するには、その5倍から10倍かかる。カレンダー自然文入力アプリが解こうとしているのはこの差で、1件あたりでは小さくても、1週間に入力する件数を掛けると、カレンダーが正確なものになるか、だいたい正しいだけのものになるかを分ける。
問題は、その機能があるかどうかではない。いまはほとんどの製品が何らかの解析機能を持っている。確かめるべきなのは、急いでいるときに実際に打ち込む文章をどう扱うか、そして読み違えたときにどれだけ簡単に直せるかである。
入力の手間が問題になってきた背景
予定の記録が軽く扱えなかったのは、記録そのものが求められる場面が増えているからでもある。労働時間の把握について、厚生労働省はガイドラインで次のように示している。
使用者は、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。 出典: 厚生労働省
記録が求められる場面が増えると、記録にかかる手間そのものが業務時間を食い始める。カレンダーは勤怠の記録簿ではないが、その日に何をどれだけやったかを後から追える唯一の場所になっていることは多い。入力が面倒だという理由で予定が書かれなければ、そこにあるのは実態と違う記録である。
もう1つの背景はオンライン会議の普及である。移動を伴わない会議は入れるコストが低いため、30分単位の予定が以前より簡単に積み上がる。件数が増えれば、1件あたりの入力の手間はそのまま週の負担になる。自然文入力が機能一覧の目立つ位置に置かれるようになったのは、便利さの演出ではなく、件数の増加に対する現実的な答えとして扱われているためである。
解析器が実際にやっていること
自然文の解析は、文を分解して、それぞれの断片に役割を割り当てる作業である。「来週火曜9時30分から本社で田中さんと打ち合わせ」であれば、タイトル、参加者、日付、開始時刻、所要時間、場所が割り当ての対象になる。分類しきれなかった部分はたいていタイトルへ流し込まれる。読み違えた予定のタイトルが「9時30分から本社で」のような形になるのはこのためである。
実務で負担が大きいのは4種類の表現である。「3月4日」のような絶対的な日付は、ほぼ問題なく解釈される。「明日」「来週火曜」「3週間後」のような相対的な日付もよく扱われるが、火曜日に「来週火曜」と書いたときの意味は本来あいまいで、製品によって解釈が分かれる。「90分」「14時から15時30分」のような所要時間の扱いには差がある。「隔週木曜、12月まで」のような繰り返しの指定は、製品差が最も大きく出る部分である。
重要なのは解析の精度そのものより、間違えたときの直し方である。 10文のうち9文を正しく読み取っても、残り1文の修正に手間がかかる製品は、8文しか読めなくても保存前に解釈結果を確認できる製品より、日々の使い勝手で劣る。日付と所要時間が構造化された形で読み返せることが、使える解析器と、うまくいく日だけ便利な解析器の分かれ目になる。
読み違えが起きる場面は決まっている
失敗の型は決まっている。決まっているということは、間違えた予定を1件ずつ発見していく代わりに、あらかじめ避けられるということでもある。
| 入力した文 | 起きやすい結果 | 代わりにすること |
|---|---|---|
| 火曜日に「来週火曜」と書く | 当日と解釈される場合と、8日後と解釈される場合がある | 日付を書くか、保存前に解釈を確認する |
| 「ランチ 1」 | 時刻があいまいで、深夜1時になることがある | 「13時」のように24時間表記で書く |
| 「第3四半期レビュー」など数字を含む題名 | 数字が時刻として読まれる | 時刻を文の先頭か末尾に寄せる |
| 「隔週木曜、12月まで」 | 繰り返しが落ちるか、単純な繰り返しに置き換わる | 繰り返しは編集画面で1度だけ作る |
| 招待メールの本文を貼り付ける | ほとんどがタイトルに流れ込む | 添付された招待ファイルを使う |
5つに共通しているのは前提の置き方である。解析器は、1つの文に時刻の表現が多くても1つしか入っていないと想定して動いている。この前提から外れた文は、自信を持った誤りを生む。自信を持った誤りは、断られるより厄介である。確認されずに保存されてしまうからだ。
避け方は2つで足りる。時刻の表現を文の真ん中ではなく端に置くこと、そして保存前に解釈結果を1度読むこと。どちらも1秒かからないうえ、予定に行き遅れて初めて間違いに気づく事態をほぼ消せる。
時差はこの表とは別に注意が要る。誤りが表に出ないまま進むためである。文の中に地域が書かれることはまずないので、解析器はその機械の現在の設定をそのまま当てはめる。机の前では正しいが、出張先で入力すると、意図した時刻から数時間ずれた場所に予定が置かれることがある。海外の相手と時間を合わせる予定は、地域を明示して書くか、項目が目に見える編集画面から作るほうが安全である。
1日の境目にも似た罠がある。夜遅くに「11時に電話」と書いたとき、翌朝と解釈する製品と、すでに過ぎた今日の時刻と解釈する製品がある。どちらの動きにも理屈があり、だからこそ結果を思い込みではなく目で確かめる必要がある。
ルールで解く方式と、言語モデルで解く方式
古くからある解析器は、あらかじめ用意した規則と文字列を突き合わせる方式で動く。速く、通信を必要とせず、動きが完全に予測できる。予測できることは軽く見られがちだが実用上は大きな長所で、同じ書き方をすれば同じ予定になるため、書き方そのものを覚えられる。
新しい実装では、文を言語モデルに渡す方式が増えている。得られるものははっきりしている。「先週と同じ時間だけど1時間早く」のような言い回し、規則の想定になかった句読点、音声認識で崩れた文章にも対応できる。突き合わせではなく解釈をしているからである。一方で費用も明確にある。多くの場合、文の内容は手元の機械から外へ出る。取引先名や案件番号を予定名に書いている人には無視できない点である。手元での照合より時間がかかり、同じ言い回しでも結果が変わることがある。
どちらが優れているかに一般的な答えはない。ただし具体的な答えはある。短い定型の言い回しで週に20件ほど入れる使い方なら、確認画面を備えた手元の解析器のほうが向いている。長い文で考えながら書く人や、入力の大半が音声の人は、言語モデル方式の利点が上回る。どちらの方式を採っているかはできることにあたる説明に書かれていることが多いので、想像で決めずに確認しておきたい。
音声入力は解析が2段になる
Macに向かって予定を話すとき、変換は2回起きている。音声が文字になり、その文字が予定になる。それぞれに固有の誤りがあり、しかも重なって出るため、原因を取り違えやすい。
いちばん影響を受けるのは固有名詞である。一般的な言葉で学習された音声認識は、珍しい姓や製品コードをありふれた語に置き換えてしまう。日付の解析はその崩れた文字列の上で行われるので、結果だけを見ると解析器の問題に見えるが、実際には1段目で壊れている。
句読点も弱点になる。話し言葉には読点が入らないため、題名と時刻の区切りを読点に頼っている解析器は手がかりを失う。言語モデルを使う実装はこの場面に強く、新しい方式の利点が理屈ではなく実務で出る数少ない部分である。
数字は固有名詞ほどではないが注意が要る。早口では15分と50分が取り違えられやすく、短い打ち合わせのつもりが長い枠になる。数字だけ前後より少しゆっくり話すという小さな習慣で、この種の誤りはかなり減る。
音声が効くのは机の前ではない。机ではキーボードのほうが速く正確である。効くのは会議が終わって次の場所へ歩いている2分間で、そこで記録されなければ、やるつもりだった連絡は「覚えているつもり」のまま消える。この経路をどう扱うかは製品ごとに差が大きいので、予定の入れ方にあたる説明で、音声からの取り込みがどこまで対応しているかを見ておくとよい。
文には書かれない時間がある
自然文入力は予定を速く作る。回る1日を作るわけではない。この2つを混同すると、速いカレンダーが実行不可能なカレンダーになる。
最も多い抜けは移動である。「木曜14時 客先打ち合わせ」と書けば1時間の予定はできるが、往復の90分はどこにも現れない。文に書かれていないのだから、どんな解析器も推測しない。移動を予定に紐づく要素として扱うカレンダーであれば入力の時点で処理できる。この考え方は移動時間にあたる説明に現れている。そうでない場合は手作業でもう1件作ることになり、その運用は2週間ほどで止まる。
2つ目の抜けは所要時間の丸めである。人は口に出すとき数字を丸めるので、実際には75分かかる作業が毎回1時間として登録される。1回あたり15分の不足が、話し方の癖として毎日積み上がる。週に4回あれば1時間分の予定が最初からずれている計算になり、この分は誰にも気づかれないまま夕方に押し出される。
3つ目は準備の時間である。文に残るのは会議そのものだけで、その前に必要な資料読みの30分は記録されない。その作業は消えてなくなるわけではないので、カレンダーに無ければ昼食のはずだった隙間で行われることになる。
ここまでの話は、速い入力が要らないという意味ではない。速い入力だけで答えが出ると考えないほうがよい、という意味である。解析器は決めたことを記録する手間を安くする道具であって、何をいつやるかを決めてくれるわけではない。楽観的な所要時間で素早く埋めたカレンダーは、間違った計画を以前より効率よく作っただけになる。
現実的な使い分けはこうなる。外から来る予定、つまり時刻が相手側ですでに決まっているものは自然文で素早く入れる。自分で進める仕事は編集画面から作り、所要時間と前後の準備を意図的に置く。速さが効く場所に速さを置き、考える必要がある場所に手数を残す形である。
公開されている情報から読み取れること
Mac向けのカレンダーアプリの説明を横に並べると、各社が同じ方向を向いていることが分かる。フォームを埋めさせずに話し言葉と音声で予定を入れられることを前面に出す製品が増えており、これは思いついた瞬間に記録されなければカレンダーは実態とずれる、という共通の認識を示している。
判断のために先に測っておきたいのは自分の件数である。普通の1週間で、作った予定の件数と、入力が面倒で後回しにしたか結局作らなかった件数を数える。週5件未満なら入力速度は詰まりどころではないので、道具を替える手間は回収できない。5件から15件なら明確な便利さになる。15件を超えるか、作られなかった件数が多いなら、入力の摩擦がカレンダーの正確さそのものを削っている状態である。
そのうえで候補を試すときは、きれいな例文ではなく、すでに失敗している文で試す。数字を含む題名、範囲で書いた所要時間、実際に存在する繰り返しの形、歩きながらの音声の4つを通せば、机上の比較では見えない差が出る。他のカレンダーとの比較にあたる一覧はこの段階で役に立ち、料金の形や更新が止まったときの扱いは購入、対応するmacOSのバージョンや同期の範囲はよくある質問にあたる説明で確かめられる。
よくある質問
日本語でも自然文入力は正しく動きますか?
製品によって差が大きく、英語での対応に比べると相対的な日付や繰り返しの扱いが弱いことがあります。翻訳した例文ではなく、普段自分が打つ言い回しで試すのが確実です。言語モデルを使う方式のほうが、規則で照合する方式より崩れ方が穏やかな傾向があります。
取引先名を含む予定を自然文で入れても問題ありませんか?
解析がサーバー側で行われる場合、文の内容は手元の機械から外へ出ます。取引先名や案件番号を含む予定は、手元で解析する製品を選ぶか、通常の編集画面から入力するのが無難です。どちらの方式かは製品の説明に記載があり、書かれていなければ問い合わせて確認する価値があります。
なぜ時刻がタイトルの中に入ってしまうのですか?
文の中に、解析器が役割を決められない数字が含まれているためです。「第3四半期レビュー」「予算2027」のような題名では、数字が時刻として読まれるか、分類できずタイトルへ流し込まれます。時刻の表現を文の先頭か末尾に寄せると、この種の誤りはほとんど起きなくなります。
音声入力とキーボード入力はどちらが速いですか?
机の前では短い文を打つほうが速く、誤りも少ないです。音声が有利なのは机から離れている場面で、移動中に記録できなければその予定は作られないまま終わります。速さより記録できる件数で比べるべきなので、座って試すのではなく歩きながら試すことをおすすめします。