multi client calendar appの選び方|複数の取引先を1画面で管理する
取引先を3社も4社も抱えると、カレンダーは予定表ではなく台帳に近いものになります。次の1時間をどこに使うのかを示し、先月どこに使ったのかを証明し、しかもA社の事情がB社の画面に漏れないようにする。multi client calendar appという言葉で検索する人は、この3つのどれかが人前で失敗した直後であることが多いはずです。同じ枠を二重に売った、共有したリンクが見せすぎた、請求の根拠が復元できなかった。困っているのは画面の描き方ではなく、境界線の引き方です。
業務委託が増えると、カレンダーの役割が変わる
働き方の分散が進んで、1人が複数の会社と同時に契約している状態は珍しくなくなりました。常駐せずに複数社の業務を受ける、平日の一部だけ別の会社を手伝う、といった形です。その結果、予定の置き場所が自然に増えます。自分の事業用のGoogleアカウント、私用のiCloud、そしてA社から発行されたアカウント、B社から発行されたアカウント。持ち主は1人なのに、置き場所は4つに分かれます。
分かれること自体は避けられません。取引先が自社のワークスペースで会議を管理している以上、そこに予定を作るよう求められるのは当然です。問題は、それぞれの置き場所が自分自身しか見ていないという点にあります。A社のアカウントは、B社のアカウントの火曜日を知りません。知らないまま、空いていることにして予約を受け付けます。
会社員のカレンダーと違うのは、失敗したときに謝る相手が社内ではなく取引先だということです。だから対策の優先順位も変わります。見やすさより先に、境界線を守れるかどうかを確かめる必要があります。
実際に壊れるのは、この4か所
順番まで含めて、起きることは決まっています。
- 境界をまたいだ二重予約。予約ページを1つのアカウントに紐づけていると、ほかのアカウントで埋まっている時間を空きとして配ってしまいます。色分けでは防げません。全部のカレンダーを同時に持っている画面だけが、確定する前に気づけます
- 差出人の取り違え。取引先のチームに私用のアドレスから招待が飛ぶと雑に見えますし、A社発行のアカウントからB社の相手に返信するのはもっと悪い事故です。これはどのアプリを開いているかではなく、どのアカウントで予定を作ったかで決まります
- 開示のしすぎ。共有カレンダーや予約ページは、思っているより多くを見せます。A社は、木曜の午後に競合の社名が入っていることを知る必要がありません。「時間が埋まっている」と見せるのと「何で埋まっているか」を見せるのは、まったく別の話です
- あとから復元できない。月末に、稼働時間をカレンダーから取り出して、質問に耐える形にする必要があります。入力の仕方が揃っていないと、この復元が一晩の作業になります
取引先ごとの持ち方は3通りしかない
構成の選択肢は実質3つで、ここで選んだものが、あとからアプリでできることを決めます。
| 持ち方 | 予定の置き場所 | 取引先をまたぐ重複の検知 | 送信時の名義 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|---|
| 1つのカレンダーを色で分ける | 自分のアカウント | 自動で効く | 常に自分のアドレス | 取引先が2〜3社で規模が小さい |
| 取引先ごとにカレンダーを分ける | 自分のアカウント | 自動で効く | 常に自分のアドレス | 継続契約で報告を分けたい |
| 取引先が発行したアカウントを使う | 取引先のアカウント | 初期状態では効かない | 取引先のドメイン | 長期の常駐に近い関わり方 |
上の2つは扱いが楽です。置き場所が1つなので、重複の検知が何もしなくても効きます。3つ目は選べないことが多い方式です。Google WorkspaceやMicrosoft 365を運用している取引先は、自社のカレンダーに予定を作ることを前提にしています。これは先方の判断であって、こちらの道具の都合で変えられるものではありません。
1つだけ、初日に確かめておくべき点があります。取引先が発行したアカウントを、Macのカレンダーアプリから接続できるかどうかです。組織の方針で外部アプリの接続を止めている場合、その取引先の週はブラウザの中にしか存在せず、手で写す作業が必要になります。契約が始まった日に分かるのと、最初の月末に分かるのとでは、負担がまったく違います。同時に扱えるアカウントの範囲はできることに整理されています。
二重予約は、空き時間の照会範囲で決まる
ここは静かに失敗する場所なので、単独で扱う価値があります。同じアプリに2つのアカウントをつないでも、置き場所は2つのままです。片方に予定を作っても、もう片方は何も知りません。
被害が出るのは予約ページです。Googleの予約スケジュールの説明では、重複を避けるためにどのカレンダーの空き情報を確認するかを指定する形になっており、共同主催者のカレンダーは初期状態では確認されないと明記されています。つまり照会は「入れた分だけ効く」仕組みで、既定の範囲は多くの人が想像するより狭いということです。
共同主催者のカレンダーを空き情報の確認に含めると、重複予約を防ぐことができます。デフォルトでは、予約スケジュールで共同主催者の空き時間は確認されません。 出典: support.google.com
対策は3つです。予約ページは契約ごとに1つに絞り、どのページからも自分が持つ全部のカレンダーを「埋まっている時間」として参照させること。表示していない私用のカレンダーも照会の対象に入れて、理由を明かさずに枠だけ閉じること。そして、ログインしていないブラウザで自分のリンクを開いて、相手に何が見えているかを実際に確認することです。
取引先発行のアカウントを自分の照会範囲に入れられない場合は、手作業の代替に切り替えます。そのアカウントの定例だけを、詳細を書かないブロックとして自分のカレンダーに写しておく方法です。手間はかかりますが、同じ火曜日を2社に売るよりは安く済みます。
取引先ごとの週を、見せずに守る
共有と予約ページは、見せる量が違います。ここを混ぜるのが典型的な失敗です。
共有カレンダーは、与えた権限に応じて予定の中身を渡します。予約ページは空き時間の形だけを渡します。取引先の相手に対しては、ほぼ常に後者が正解です。相手には空いている枠だけが見え、埋まっている枠の中身は自分の側に残ります。
見落とされがちな点が2つあります。1つは、予定の件名は移動するということです。取引先のアカウントの中に作った予定は、その会社のカレンダーを見ている社員全員に件名が見えます。先方の環境の中に、別の取引先の案件名を書かないというだけで防げます。もう1つは添付ファイルで、こちらは契約が終わったあともアカウントの中に残り続けます。
逆向きの漏れもあります。取引先からの招待を承諾したとき、その予定が家族と共有しているカレンダーに入ってしまう構成です。届いた招待をどのカレンダーで受けるのかを最初に決めておくと、この方向の漏れが止まります。
もう1つ、契約書に守秘義務がある場合は、道具の選び方そのものが確認の対象になります。予定の中身が外部のサービスを経由するのか、それとも接続の情報がMacの中だけに置かれるのかで、説明できる範囲が変わるためです。取引先から質問されてから調べるのではなく、契約の前に自分の構成を1枚にまとめておくと、答えるのに時間がかかりません。とくに、予約ページのように24時間受け付ける仕組みを使う場合は、Macの電源が切れている間も動く必要があるため、どこに何が保管されるのかを把握しておく価値があります。
切り替えの手数を減らす
複数社を持つと、単独の仕事には無い手順が毎回入ります。入力する前に「どこに入れるか」を選ぶ手順です。これが週に何十回も発生し、実際の摩擦のほとんどはここにあります。
効くのは2つの設定です。新規予定の既定のカレンダーを、いちばん量の多い契約先に合わせること。もう1つは、1社だけを見る表示と全部を重ねる表示を切り替えられるようにすることです。相手の週を組み立てるときと、時間を約束してよいか判断するときでは、見たい画面が違います。
入力そのものの速さも効きます。フォームを開き、カレンダーを選び、通知を設定する形だと、その手数が1社1日ごとに積み上がります。話し言葉と音声で予定を入れられる方式なら、取引先も時刻も場所も含んだ1文を書くだけで済みます。1か月では分単位ではなく時間単位の差になります。1文をどう解釈するかは予定の入れ方で確認できます。
請求のための記録を、あとから取り出せる形にする
カレンダーは、時間の使い道についていちばん完全な記録で、いちばん構造化されていない記録でもあります。入力時の小さな約束事だけで、月末が短くなります。
件名の先頭に、取引先を示す短い符号を必ず置いてください。同じ形で始まっている予定は、あとから絞り込みも集計もできます。説明欄の自由記述ではそれができません。
予定は、計画した時間ではなく実際に稼働した時間に動かします。終わった直後にドラッグするほうが、4週間後に差分を思い出すより早く、記録が「意図」ではなく「事実」になります。請求できる移動時間も記録に含めます。取引先の事務所までの実測時間は本物の費用ですが、会議だけを記録していると見えません。実測して会議の前に確保する方式なら、その時間が自動で記録に残ります。何を自動で測り、何を手で設定するのかは移動時間にまとまっています。
単価の話も、記録の形に影響します。時間で請求する契約と、成果物で請求する契約では、残すべき粒度が違います。時間で請求するなら開始と終了の正確さが重要になり、成果物で請求するなら、どの週にどれだけ寄せたかが分かれば足ります。全部の契約に同じ細かさを求めると入力が続かないので、時間で請求する取引先だけ厳密にする、という割り切りが現実的です。
取り出しは、書き写しではなく書き出しで行います。Macの標準カレンダーは、期間を指定した予定の一覧や、選択した予定だけの一覧を印刷でき、対象のカレンダーも印刷時に選べます。この出力があれば、請求書との突き合わせは表計算を開かずに終わります。
契約が終わるときに、記録を落とさない
後片付けは誰も計画しない工程で、記録が消えるのはここです。取引先が発行したアカウントが停止されると、その中に作ったものは全部消えます。会議も、メモも、添付も、あとから範囲について質問されたときの根拠もです。必要なものは、停止される前に外へ出しておく必要があります。
きれいなやり方は、契約の期間中ずっと、正本を自分のアカウントに置いておくことです。取引先のアカウントは「会議が行われる場所」であって「記録が保管される場所」ではない、と決めておきます。先方の環境で開いた会議についても、自分のカレンダーに数秒でブロックを作っておけば、関係が終わっても記録は残ります。
定例の予定にも目を向けてください。誰も止めない週次の打ち合わせが残っていると、契約が終わったあとも枠を閉じ続け、次の取引先に出せる空きを静かに減らします。終了した日に削除すれば1分の作業です。予約ページも同じで、公開したままのリンクが数か月後に見知らぬ相手から予約を受けることがあります。運用の細かい条件はよくある質問と他のカレンダーとの比較で確認できます。
よくある質問
取引先ごとにカレンダーを分けるべきですか、アカウントを分けるべきですか?
自分のアカウントの中でカレンダーを分ける方式で足りることが多いです。置き場所が1つなので重複の検知が自動で効き、報告も分けられます。アカウントを分けるのは、取引先が自社のワークスペースにアカウントを発行して、そこで会議を管理するよう求めている場合です。両方が混ざる状態は普通なので、発行されたアカウントの予定も埋まっている時間として数えてください。
同じ時間を2社に押さえてしまうのを防ぐには?
予約ページに、実際の予定が入っている全部のカレンダーを照会させることです。空き情報の確認は指定した分しか効かないため、リストから漏れたカレンダーは枠を閉じません。照会に含められないアカウントがある場合は、その定例だけを詳細なしのブロックとして自分のカレンダーに写しておくと防げます。
取引先に、ほかの予定の中身は見えますか?
予約ページ経由なら見えません。空いている時間と埋まっている時間の形だけが相手に渡ります。共有カレンダーは別で、与えた権限によっては件名まで見えます。取引先のアカウントの中に作った予定は先方の社員に件名が見えるので、そこには別案件の固有名詞を書かないでください。
請求のために稼働時間をカレンダーから取り出すには?
件名の先頭に取引先の符号を必ず置いて、絞り込みと集計ができる形にしておきます。予定は計画時刻のままにせず、実際に稼働した時刻へ動かします。そのうえで、対象のカレンダーだけを選んで期間内の予定一覧を印刷または書き出せば、請求書との突き合わせに使えます。